世界金融経済危機と中国経済の見通し

世界金融経済危機と中国経済の見通し

――最初の経済不況脱皮国になる可能性大――

                       理事長 凌 星光

 

 米国のサブプライム・ローン問題が発展し、089月、リーマン・ブラザーズが倒産、一大金融危機が発生した。アメリカ発の国際金融危機は、瞬く間に世界に広がった。当初、EUはユーロの地位向上のチャンスと見たが、同じような金融危機に見舞われ、米国と共に対策に追われることとなった。日本はバブル経済崩壊後の失われた10年の経験があり、諸銀行は慎重な姿勢をとっていたため、ダメージは比較的小さく、金融情勢は良好な状況にあった。その蓄積された金融力を利用して、国際金融世界で攻勢に出ようとさえした。しかし、金融危機の影響が実体経済に及びだすと、輸出依存の日本経済の脆弱性が顕在化し、工業生産が萎縮し、大量の失業者を出すこととなった。

 

 

 米欧日先進国経済が暗闇の中でさまよう中、中国、ロシア、ブラジル、インドなど新興国経済が世界経済を支えてくれるのではないかという論議が一時盛んとなった。しかし、08年第4四半期の経済指標を見ると、これらの国の経済も一律悪化しており、決して世界経済の牽引力になれるものではないことが分かった。とりわけ、30年にわたって高度成長を続けてきた中国への期待が大きかったこともあって、第4四半期の経済成長率が前年同期比6.8%と大幅ダウンしたことは、世界各国の経済関係者に大きな失望を与えた。

 ところが、中国経済は09年に入って、諸経済指標が下げ止まり、一部指標には好転の兆しが見えてきた。世界のすべての国で経済が引き続き悪化している中で、唯一中国経済が上向き始めたのである。そこで3月に入ると、日本でも中国経済への期待が再度、熱を帯びてきた。もっとも、これが本格的回復か、それとも一時的なものなのか予断を許さないが、筆者は前者である可能性が高いと見ている。それを短期的要因と長期的要因の両面から分析してみたい。

 

 先ず、中国の受けた金融危機の影響はきわめて小さかったことである。それには資本の自由化をしていないため、金融コントロールをしやすかったという事情がある。数年前から国際的投機資金が大量に流れ込み、原因不明の外貨準備が毎年数百億ドルの規模で増加した。それに対し、規制を強化し、入ってきた投機資金が地下ルートで引き上げることができなくなるような対策をとった。その上、中国には膨大な外貨準備高があったため、ベトナムや中東欧諸国のような通貨危機(自国通貨為替レートの暴落)が起こらなかった。国全体の金融秩序が安定的に維持され、マクロコントロール操作が効果的に機能した。

 

 次に、政府が適時に政策転換を行い、大胆な景気刺激策をとったことが挙げられる。政府は0811月時点で、二年間4兆元の景気刺激策を打ち出した。対米輸出を中心とした外需が急激に落ち込み(0811月から4ヶ月連続で輸出がマイナス、092月は前年同月比25.7%減)、広東省や山東省の加工貿易をメインとした沿海地域外資企業及び国内企業はその多くが経営困難に陥り、倒産に追い込まれたのも少なくない。この津波第一波が中国経済をパニック状態に陥らせ、もし政府が適時に対策をとらなければ、内需企業にも影響を及ぼし、悪循環に陥る可能性があった。つまり津波第二波の襲来である。政府の果断な景気刺激策は先ず心理的効果を生み、その後の一連の消費刺激策と公共投資前倒し策によって、有効需要が着実に引き起こされた。

 

 さて、中国経済は金融と財政の両面での景気の下支え、更には社会総動員とも言える農民工2000万人及び大学卒業生600万人余りに対する雇用対策によって、V字型回復を実現し、世界で最も早く危機を脱する可能性が高い。ただ、不動産バブルの膿を出し切っておらず、それのソフトランディングができるかどうかという深刻な問題が存在する。とは言え、全体としては、中国経済高度成長の諸要因は「健在」である。

 先ず、中国の労働力の素質は高まっており、供給能力と潜在需要が極めて高いことである。外貨も含めて資金は豊富で、世界の原料価格が大幅に下落した今が、中国の生産力を大いに発揮するチャンスである。一人当たりGDP3000ドルを越したばかりの段階にあり、分配政策の調整によって、高い潜在需要を掘り出すことができる。

 次に、政府の役割と市場の原理を結合させた中国式社会主義メカニズムが効果的に機能している。30年間の改革開放政策のプロセスで、中国は伝統的な社会主義計画経済メカニズムを漸進的に変えていき、現在のメカニズムを確立していった。市場万能論の新自由主義の影響を受けたが、完全には同調せず、政府の役割を堅持してきた。現在、世界でも評価され得るよき経済メカニズムが確立されている。

 

 第三に、中国の国際的地位が向上し、引き続き後発性利益を享受する好条件が存在する。中国はまだキャッチアップの段階にあり、先進国から学ぶ必要がある。中国の平和外交によって、先進国との関係がよいばかりでなく、ステークホルダーとして世界経済の枠組み作りに関与することが求められている。最近、米国がハイテク製品及びその関連技術の対中輸出を緩和したが、このように中国の高度成長を支える外部条件がますますよくなっている。

 

 中国経済がV字型回復を実現したとしても、それによって世界経済が金融経済危機から脱することには繋がらない。中国経済のボリュームがまだ小さいからである。中国の世界に占めるGDPは僅かに6%余りで、機関車的役割は担えない。世界GDPの約70%を占める先進国、とりわけ米国の経済が立ち上がらない限り、世界経済は不況から脱し得ないのである。そこで、中国経済の回復がきっかけとなって、米国と日本の経済が上向くかどうかがカギとなる。今年中に世界経済が危機から脱する可能性は十分にありうると見ている。それは本格的回復とは言えないまでも、落ち着きを取り戻すという意味においてである。

 ここで指摘すべきは、中国は今回の世界的金融経済危機を契機として、五つの戦略的大転換を果たす可能性があることである。これは今のところまだはっきり見えないが、五年後にはそう評価されよう。

 一つは中国外交の受動型から能動型への転換である。先進国サミット会議、20カ国金融サミット会議などで、中国はますます重要な役割を果たしている。この傾向はますます強まり、中国外交は受身の姿勢からより能動的なものとなろう。但し、リーダー的役割は避け、新興経済国または発展途上国代表との連係プレーという方式をとっていこう。

 

 二つ目は外需依存型から内需主導型への転換である。中国経済は長年、外資優遇策をとって経済の成長を図った。その結果、外需依存型の経済構造が形成され、今回の金融経済危機で輸出産業が大きな打撃を受けた。それを教訓として、政府当局はドラスティックな内需拡大策をとり、内需主導型経済への転換を図っている。今まで、スローガンに留まっていた転換が真に実行される可能性が出てきた。

 

 三つ目は人民元レートの上昇による国際的インバランス改善への転換である。余りにも割安な人民元レートが国際的不均衡を招いてきた。中国当局も人民元の上昇は不可避と見て、より弾力的な外国為替政策をとってきた。しかし外需依存型経済であったため、輸出企業への影響を懸念して、人民元レートの調整は小幅に留まっていた。内需主導型に転換していけば、人民元の上昇を是認する幅が広まる。また、それは交易条件の改善をもたらし、中国国民生活の改善に繋がっていく。

 

 四つ目は経済成長方式の量から質への転換による経済構造の高度化である。20数年にわたって量から質への転換が叫ばれたが、それは掛け声だけに終わった感が強い。今回の政策転換を転機として、過度に低い消費及び第三次産業のウエイトが高まると同時に、企業経営の膨張型から効率型への転換が進む可能性が出てきた。今力を入れている自主開発技術の向上も一大転機を迎えるかもしれない。

 

 五つ目は新自由主義の影響克服による「和諧社会志向」への意識転換である。中国経済は新自由主義の影響を受け、日本よりも資本主義的な社会が形成された。胡錦濤政権は「和諧社会論」を提起し、その是正を図ってきたが、思うようには進展を見ることができなかった。今や新自由主義の欠陥は余りにもはっきりしているし、政府の果たすべき役割も明白となった。よって、中国式の特徴ある社会主義市場経済は政府主導型市場経済或いは国際協調主導型市場経済であるというコンセプトが、ますます中国社会に浸透していこう。

 

 最後に、日本の主流世論は、中国の影響力増大を肯定しつつも、その困難と挫折への関心が極めて強い。そのため、中国の前途について戦略的見通しをつけにくく、日中間の戦略的提携確立のチャンスを逸する可能性が高い。その上、政局の不安定がこの可能性を増大させている。日本の政治家と有識者はこの点をよく考えていただきたいと忠言したい。

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このページは、日中科学技術文化センターが2009年5月11日 16:36に書いたブログ記事です。

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