理事長 凌星光
毒餃子問題、東シナ海ガス田問題、チベット騒乱など、日中関係の障害が 間断なく発生し、日中両国の有識者の中には、胡錦濤国家主席の訪日を延期 したらどうかという意見もあった。胡錦濤はまさに敵陣に乗り込むような意気込 みで決断したと思われる。結果は予想をはるかに上回る大成功であった。
先ず日本訪問の数日前に、福田首相の親書に応えるかのように、ダライラマの代表との対話再開を表明したことは賢明であった。長野聖火リレーが終わったばかりの日本は、チベット騒乱問題が最も大きな話題となっていたため、対話再開は日中間の雰囲気改善に効果的であった。
次に、13億の大国指導者としての風格を示した。胡錦濤は実直型指導者で、記者会見などでのパフォーマンス演出は苦手であるようだ。が、福原愛との卓球試合で示した真剣ぶりは印象的だったし、その後の抱擁しながらの笑顔が素晴らしかった。大国の「親民指導者」に相応しい厳粛さと優しさがにじみ出ていた。多くの視聴者は好感を持ったと思う。
第三に早稲田大学での講演など一連の活動のなかで、過去に捕われない未来志向を突出させたことは、多くの日本人の心を捉えた。そこには、福田首相が靖国神社参拝をしないと明言したために、中国の世論がよい方向に進み、胡錦濤の未来志向強調の環境が整備されたという面もある。
第四に、1972年の国交正常化共同声明、1978年の日中平和友好条約、1988年の「平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言」に次ぐ、第四の文書「戦略的互恵関係の包括的推進に関する日中共同声明」が発表されたことである。この声明は日中共同宣言と同じく21世紀の日中関係を定めたものだが、その内容の充実さ及び両国最高首脳の署名入りから見て、文書の重みは全く違うと見るべきだ。
この共同声明の内容については、次の三点が重要だ。第一点は、両国関係において戦略的互恵関係の枠組みが構築されたことである。第二点は東アジアの平和と繁栄を保証する日中関係が謳われ、北東アジア及び東アジアでの協調と協力が示された。第三にグローバル問題に貢献する日中協力が謳われ、地球温暖化問題や省エネ・環境問題での協調と協力が強調された。とりわけ、「気候変動に関する共同声明」が発表されたことは大きな意義がある。
福田首相は「日米同盟とアジア外交共鳴」論を提起し、日本の外交戦略を「対米一軸論」から「対米対中二軸論」に転換させることを宣言したといえよう。今回の共同声明はまさにそれを実行したものであり、歴史的功績を残したと、後世の歴史家は評価するであろう。また胡錦濤は、大国の指導者としての存在感を国内外に示したばかりでなく、三つの成果を成し遂げた。一つは北京オリンピックを巡る国際世論と国内世論の悪循環を好循環に変えた。二つ目は、好転しだした日中関係をより確かなものにした。三つ目は胡錦濤のリーダーシップが目に見える形で示されたため、指導体制の強固さが国内外で評価されるようになった。
今後はこの成果が引き続き保たれ生かされるよう、両国の有識者は知恵を出し合わなくてはならない。わが社団もそれに貢献すべく努力したい。 (2008年6月6日)

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