突出する中国の農民工問題

農民工が21千万人に達した。内訳は都市部が13千万人、農村部が8千万人である。農民工とは、戸籍は農村だが、農業に従事しない人達のことを指す。都市部において、第二次産業は57.6%、第三次産業では52%を占め、3K職種など底辺を支える農民工がいなければ、都市経済は動かなくなってしまう。だが、都市勤労者と農民工の収入は大きくかけ離れ、大きな格差を生じている。本稿では農民工の変遷を辿り、現在の問題点を明らかにしたい。

1985年に星火計画が発表された。農村に郷鎮企業を発展させ、農村の余剰労働力を吸収しようとするものだ。「離土不離郷」(農民は土から離れるが、故郷からは離れない)という農村工業化の政策である。これが現在に連なる「民工」の始まりとなった。一部の民工は、高い賃金を求めて都市部へ移動し始めた。農村戸籍の農民が都市に定住することは、当時の中国政府にとって想定外のことであり、政府は「盲流」と位置づけ、抑制政策をとった。

だが、92年に鄧小平の南巡講話があり、翌93年に社会主義市場経済体制の構築により、外資導入が奨励されるようになると、民工は低賃金労働者として、脚光を浴びるようになる。外資は中国の安価な労働力を必要とし、中国は外資の資金と技術を必要としていた。「有序流動」(秩序ある移動)へと政策が転換され、労働力、資金、技術の相乗効果により、中国経済は大きな飛躍を遂げることとなった。

技術者、管理職など上級職の給与は、GDP二桁成長に比例して大幅に向上した。他方、民工の賃金は、膨大な農村の余剰労働力により、十数年間の長期に渡り、概ね据え置かれてきたのである。外資系企業の人たちも驚くほどであった。中国の高度成長は、一定程度、民工の低賃金に支えられていた。世界の工場は、民工の犠牲の上に成り立っていたといっても過言ではない。

 鄧小平の経済政策は、「一部の人、一部の地域を先に富ませ、後れた人、地域を援助し、共に豊かにする」というものであった。いわゆる「先富論」である。確かに一部の人、一部の地域は裕福になったが、あまり「援助」をせず、格差は拡大するばかりであった。

 2002年、胡錦涛が総書記に、翌03年に温家宝が総理に就任し、政策に変化が見られるようになる。農村の振興策も功を奏し、農村の余剰労働力も35歳以下では限界に近づき、無尽蔵ともいわれた安価な労働力にも翳りが見えてきた。04年春節の後、多くの農民工が、広州の工場に戻らなくなり、外資系企業は、初めて労働力不足に直面することになった。

 

 労働の需要が供給を上回れば、賃金は上昇する。ここ数年、二桁の上昇が続いている。単に労働需給関係だけでなく、政治的、社会的認識にも大きな変化が生じた。都市と農村という二重構造社会のゆえに、日米欧などの外資系企業を除き、多くの農民工は社会保障を享受できず、賃金の未払いも多発していた。労働法令の保護も充分ではなく、都市住民からは蔑視の対象となっていた。

農民工の2割が家族ぐるみの移動である。農民工の子供たち多数が、都市に居住しているにも拘らず、親の戸籍が農村であるために、その子供たちの戸籍も農村となり、都市の学校で学ぶことはできない。自分達で学校を運営しようとしても、都市の法規に抵触するので、それも叶わないという状況であった。

 胡錦涛・温家宝政権が提唱しているのは調和社会(諧和社会)の建設であり、二極分化とは相容れず、経済成長一辺倒の政策が転換され、労働者とりわけ農民工に対する保護政策が相継ぎ打ち出された。2004年に「最低賃金規定」が制定され、その後相継いで改訂され、深圳特区では遂に1000元に達した。農民工の全国平均賃金も1000元以上に上昇した。

 本年1月、労働契約法が施行され、労働者個々人との労働契約締結が義務づけられ、罰則も定められた。非組合員の多い農民工にとって、干天の慈雨である。年初以来、労働契約の締結が急増し、給与の未払いが大幅に減少したという。農民工の賃金は都市労働者の半分といわれるが、同法に定められた「同一労働・同一賃金」からの乖離をいかに解消するかが新たな課題となっている。

中国における組合の総元締めが中華全国総工会である。同じく07年末、総工会に加入している農民工は4100万人、昨年だけでも1000万人の増加である。組合に加入すれば、社会保険の加入も容易になる。07年末、基礎年金、医療保険、労災保険に加入している農民工は、それぞれ1846万人、3131万人、3980万人に過ぎず、農民工21千万人の総数に比べてあまりにも少なく、更なる加入促進策が必要である。

2006年、国務院は国務委員兼国務院秘書長の華建敏を議長、労働保障部(現人力資源和社会保障部)を事務局として、農民工工作連席会議を設置した。中央省庁関連部門をはじめ総工会、婦女連合会、共産主義青年団などが構成員となっており、各部門が連携しつつ農民工の保護と生活水準の向上に力が注がれている。

賃金・待遇が上昇し、労働組合・社会保険の加入率も高くなり、都市住民と農民工との格差も縮小されていく趨勢にある。それを保証するものとして、格差の根源である戸籍制度の撤廃が議事日程に上がっていることも見逃せない。

 

小針俊郎2008年6月23日

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