日中経済協力について

   日中貿易は岸内閣時代の1958年に一度全面中断したが、1960年の池田内閣発足を機に友好貿易が誕生、1962年には半官半民の覚書貿易も始まり、「車の両輪」として「以経促政」「以民促官」の役割を果たした。外交課題で、日中国交正常化のように全国民的コンセンサスが形成されたことは、空前だったが、経済界もその重要な一翼を担った。

 

                                        武吉 次朗

一 半世紀の回顧

 

 日中貿易は岸内閣時代の1958年に一度全面中断したが、1960年の池田内閣発足を機に友好貿易が誕生、1962年には半官半民の覚書貿易も始まり、「車の両輪」として「以経促政」「以民促官」の役割を果たした。外交課題で、日中国交正常化のように全国民的コンセンサスが形成されたことは、空前だったが、経済界もその重要な一翼を担った。
 1972年の田中内閣発足により国交正常化が実現
し、これを機に中国は、戦略物資である石油の対日輸出に踏み切った(「エネルギーと技術の取引」」という貿易枠組みが20世紀末まで続いた)。
 1978年の福田内閣期に平和友好条約が調印され、ほぼ同じ時期に中国が近代化を目指して改革・開放時代に入ったことに対応して、大平内閣が全面協力の方針を打ち出し、円借款・合弁・資源開発など本格的な経済協力が官民挙げて進められた。これにともない日中貿易額は急増し、ついに日米貿易を上回る規模となり、なお拡大中で、両国経済関係は切り離すことのできない状態ができている。
 今や日中経済関係は双方それぞれにとり重要な地位を占め、両国関係を支える物質的基礎となっている(呉儀副総理、2005年、名古屋での発言)。
 以上の経緯から見て、日本の内閣の変わり目が、日中経済関係を新段階に押し上げるチャンスになってきた、といえよう。そして双方の関系者がそのことを意識し、チャンスを現実にするため共に努力してきた。小泉首相の靖国参拝強行で「政冷」がつづき、「経熱」に悪影響を及ぼしはじめていただけに、安倍内閣の発足を機に政治関係を再び正常化し、経済協力を推
進することは、両国関係者の強い願いであり、期待でもあった。安倍首相訪中に関する共同プレス発表が、「政治と経済という二つの車輌を力強く作動させ」としたことは人々を鼓舞させるものであるし、「共通の戦略的利益に立脚した互恵関係の構築」は、未来志向という理念を具体化したものとして評価できる。
 

二 双方からの提言


 昨年来の主な提言だけ拾ってみたい。
 2005年5月、呉儀副総理:①中日経済一体化を進めることは、両国の利益に合致するだけでなく、東アジア経済一体化の過程でも重要な役割を果たすことになる。②鉄鋼・造船・精密機器・IT・ソフトウェア等の分野で産業別戦略対話を進め、ある種の同盟(アライアンス)結成の方途を探りたい(注:これは、欧州石炭鉄鋼共同体が欧州経済統合の出発点になったことを想起させる画面的な提言といえよう)。
 2006年3月、日本国際貿易促進協会:知的財産権保護に関する協力(注:すでに中国各地でセミナーを15回開催してきた)。これに関連して、中国企業の自主ブランド創出・R&D活動への協力(注:すでに中国各地でセミナーを数十回開催してきた)。
 2006年4月、経済同友会:人材育成への協力。(大量退職が始まるシニアエキスパート人材)[団塊の世代]の活用、日本版フルブライト奨学基金創設による中国人留学生への支援、中国の大学における日本型経営の講座開設など)。
 2006年5月、薄熙来商務部長:これまでの「エネルキーと技術の取引」に取って代わる新しい中日協力枠組みの模索。たとえば省エネ・環境保全をテマにすること(注:薄部長も、欧州石炭鉄鋼共同体がEUまで発展したことを例に挙げた。また、今年から中米間で「戦略経済対話」メカ二ズムが起動することも、ひとつの参考になろう)。
 2006年10月、安倍首相訪中の共同プレス発表:エネルギー、環境保護、金融、情報通信技術、知的財産権保護等の分野を重点として、互恵協力を強化する。
 以上の提言は、政府が主導するか、政府の支援の下で民間が推進する性格のものであり、いずれも官民一体で取り組むことが求められる課題なので、まず日本政府が本腰入れて取り組む姿勢を明確に打ち出す必要があろう。

 

三 中国側に望みたいこと

 

 ①中国の対外関係において、自分は理念や原則だけ述べ、具体的な内容は他国から提案されるのを待って対応を考える、という行動パターンが、しばしば見られる。上記の呉副総理と薄部長の発言もその階段でとどまっており、日本側の提言とは対照的だが、ぜひ具体的に提案して、日本側、特に政府当局に考えさせ、行動を起こさせるよう努めてほしい。
 ②中国で、市場経済を運営するルール(法則など)は、ほぼ整備されたといえるが、ルール違反に対する具体的な判断基準、および効果的な制裁制度が完備されていないうえ、執行力も弱いため、順法意識の薄い企業が勝手に行動して、外国の信用を失う事例が見られる。「地方保護主義」も一因になっているようだ({クレヨンしんちゃん}の商標権侵害など)。「企業活動ルール(契約・会計・労働・情報管理など)の整備」と、「企業が担っている社会的責任をどう果たすべきか」についても、日本の経験と教訓を学習・導入する余地が大きいのではないか。最近訪日取材した中国の都市報記者も、このことを痛感していた。
 ③関係密接化にともない多発が予想される経済・技術諸問題を政治問題化せず、冷静に実務的に協議し解決していくことは、日中双方にとり常に求められる課題である。「問題をすぐ政治化する」ことについては、双方のメディアにも大きな責任がある(事実関係を正確に把握しないまま、憶測による記事で、意識的または無意識のうちに、民衆の反感を煽る)。中国メディアについて言えば、「つくる会教科書」のアサヒビールの例、日本における輸入農産物検査の「ポジティブリスト」の例などがある。    WTO加盟交渉時の中国首席代表だった竜永図氏も、貿易摩擦への対応で同様のことを指摘し、「感情的なナショナリズムは大局的利益を損ねる。責任を果たす国として世界に歓迎されるためには、国民一人一人の努力が必要だ」と強調している。

 
【筆者略歴

武吉 次朗(たけよし じろう)
 1932年生まれ。1958年、中国から帰国。日本国際貿易促進協会事務局勤務。1980年、同協会常務理事。1990年、摂南大学国際言語文化学部教授。2003年退職。
 主な著書:『現代中国30章』(共著、大修館書店、2004)など。主な訳書:『大破産中国の国有企業改革』(東方書店)、『新中国に貢献した日本人たち』(日本僑報社、2005)など。

 

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このページは、日中科学技術文化センターが2008年3月13日 09:50に書いたブログ記事です。

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