1.はじめに
世界の国内総生産(2005年、名目)は、44兆ドル。
中国が2兆2千億ドル(5%)で5位。日本の1/2である。
しかし、これを購買力平価(PPP)に換算すると、中国は
8兆5726億ドルと日本の倍になり、アメリカに次ぐ世界
第2の経済大国となる。
中国の労働事情
(社)日中科学技術文化センター
参与 小針俊郎
1.はじめに
2.人口
3.農村
4.失業
5.教育
6.外資
7.おわりに
初出:2005年11月17日『新宿職安ハローワー講座』「中国の労働事情」
本稿:2006年12月27日、上記原稿を加筆、当社団ホームページに掲載
1.はじめに
世界の国内総生産(2005年、名目)は、44兆ドル。中国が2兆2千億ドル(5%)で5位。日本の1/2である。しかし、これを購買力平価(PPP)に換算すると、中国は8兆5726億ドルと日本の倍になり、アメリカに次ぐ世界第2の経済大国となる。
貿易総額については、中国が米独に次ぎ世界3位の貿易国となり、アメリカとともに日本最大の貿易相手国となった。輸出入均衡の中国だが、輸出の過半は、外資系企業の輸出である。これは日中貿易においても然り。過半が日系企業の対日輸出である。
経営の三要素は、人、物、金である。国境を越え、金を払い、物を仕入れるのが輸入であり、その逆が輸出となる。中国は世界の工場を自任するが、その過半は加工・組立貿易である。加工・組立は、労働すなわち人の作業である。
加工・組立は農村からの出稼ぎ労働者によって行われている。外資系企業もこれらの労働力に頼らざるを得ない。日系企業も、例外ではない。アメリカ流に言えば、オフショアリング(海外委託)である。
中国は日本の技術と資金を欲し、日本は中国の労働力と土地を必要とすることから、両国間の貿易と投資が右肩上がりで拡大してきた。「有無相通じる」から「切っても、切れない」関係にまで発展したのである。IMFの試算では、中国の輸入の伸びが10%減少すると、日本のGDPを0.5%押し下げるという。輸入を支えるのは輸出であり、輸出を支えているのが労働力である。日本経済を考えるに際しても、中国の労働事情を理解することが欠くべからざるものとなった。
2.人口
中国の人口は、公称13億人。世界の人口が65億人であるから、世界の人口の内、20%、5人に1人が中国人ということになる。概ね日本の10倍であり、0を加えれば、比較も容易になる。
1)労働力人口
15~64歳までの労働力人口は、中国の8億7千万人(67%)に対し、日本が8億4千万人(66%)であり、比率は概ね同じである。65歳以上は中国が1億人(8%)に対し、日本が2千5百万人(20%)。
14歳以下は、中国が2億8千万人(22%)、日本が
1千8百万人(14%)となり、老齢人口と少年人口とが逆になっている。
2)一人っ子政策
14歳以下の各年齢の平均値は中国が2000万人
弱、日本が120万人強という計算になる。日本の
特殊出生率が1.2であるから、概算で中国は2倍、
概ね二人となる。一人っ子にはなっていない。
農村では、第一子が女子であれば、第二子が許さ
れるからである。都市の老人は年金で救済されるが、
農村には年金が殆ど無く、男手に扶養されるのが
常である。
3)都市と農村
中国13億の人口は、農村8億、都市5億に大別さ
れ、 就業者は農村が4億8千万人、都市が2億7千
万人。農村就業者の内訳は、1億4千万人が郷鎮企
業、1億3千万人が出稼ぎ労働者となり、1億5千万
人の余剰労働力が存在している。
|
|
0~14 |
15~64 |
65~ |
|
日本 |
17929 |
84887 |
25268 |
|
中国 |
281767 |
871078 |
100020 |
|
|
|
単位 |
千人 |
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3.農村
1)黒孩子
中国の人口は公称13億人だが、これを信じる人は
少ない。14億人を超えると推測される。日本と概ね同じ人口
が増加してしまう。その理由は、戸籍のない子供達が農
村に多数存在するからである。農業の担い手は力のある
男手である。老後は男手に頼らなければならない。従って、
女の子が生まれ、男手が少ない場合は、第3子を戸籍
外とする。いわゆる「黒孩子」である。戸籍が無いので、義務
教育が受けられず、最下層を形成することになる。
2)都市と農村の格差
中国の戸籍制度は、都市と農村を峻別する。戸籍は居住権と表裏
一体をなし、身分制といっても過言ではない。農村と都市の貧富の
差は、総収入で1:3、肥料・農薬などの諸経費を差し引い
た可処分所得では1:4となる。更に社会保険などを考え
れば、実際には、5~6倍になってしまう。
3)農村の余剰労働力
日本の農業に国際的競争力が無いのは、農民一人当たりの耕地面
積の狭さに起因する。だが、中国の狭さは日本の半分にも満たない。
更に降雨量も少なく、収穫量は厳しい状況にある。このような状況
のもと、中国政府筋は、農村の余剰労働力を1.5億と試算 している。
郷鎮企業の全従業員数に匹敵する。失業予備軍であり、また豊富で
安価な労働力の源泉でもある。
4.失業
1)失業率
中国が発表する失業率は、4,3%であり、この
比率は日本よりも低い。数年前の3.1%のとき、
労働省出向の一等書記官が、日本的に言えば、
10%以上と述べている。何故なら、中国の場合、
「都市部登録失業率」だからである。就業人口7.5億人の内、
4.8億人の農民は除外される。次に都市部2.7億人の内、
失業保険非加入者1.7億人が該当せず、加入者1億人
が失業登録の権利を有するに過ぎず、分母は1億人の
内の失業登録者数となり、従って、中国の失業率は低くなり、
実感を伴わないものとなる。
2)社会保障制度
農村において、社会保険は普及していない。都市部就業者人口
2.7億人における加入者は、失業1億人、医療保険1.3億人、労災保険0.8億人、年金1.7億人である。
しかし、国民が等しく社会保険加入の権利を享受できるわけでは
ない。中国は地方分権の国家である。労働・社会保障省は、法律を
造るが財政上の責任はない。予算は全て地方政府の責となる。裕福
な地方政府は問題ないが、財政赤字の政府は保険を満額支払えるわ
けではない。
3)トリレンマ
経済成長を達成する為、エネルギーを増加させなければならない
が、それにより、環境問題を悪化させ、経済発展を阻害する。これ
がトリレンマ(三重苦)である。しかし、失業問題を緩和させるに
は、経済の成長率を高くしなければならない。しかも1.5億人の余剰
農民が控えている。豊富で安価な労働力は、失業とそれに伴う治安
の悪化そして社会不安に転換する危険を孕んでいることを銘記して
おかなければならない。
5.教育
2005年の統計よれば、小学校の生徒数は1億864
万人で、平均すると一学年あたり1800万になる。
中学校在校生数が6214万人で、卒業者数が2123万
人。中学生数と小学生数を比較すれば、少子化の
傾向が顕著になっていることが分かる。
普通高校の受入れ枠が877万人であるから、中卒の
40%強が普通高校に進学しており、大都市部では殆
どが高校に進学していることになる。普通高校の在
校生は2409万人。職業高校などが1211万人。職業
訓練校在校生は275万人である。
大学は定員枠が504万人と前年に比べ57万人増加。
12%の伸びである。WTO加盟の5年間で輸出が3倍に
なったが、大卒者も3倍になっている。
2006年の卒業生が413万人に増加しているにも
係らず、求人が166万人に過ぎず、「卒業、即失業」
という状況が多く見られるようになってしまった。
企業のニーズは即戦力であり、大卒が月給1000 元
以下、甚だしくは無給で仕事に従事しているケースも増加して
いる。
産業の高度化を目指す中国は、職業訓練にも、力
を入れている。今後5年間において、労働社会保障部
は、高級エンジニア・エンジニア190万人、高級技能
労働者700万人を養成し、農村からの出稼ぎ労働者
4000万人に対しても、職業訓練を実施する計画である。
経済政策において「量から質へ」の転換を図っているが、
人材養成においても、同じことが求められている。
6.外資
中国特需が喧伝された2004年、珠江デルタにお
いて、労働力不足が初めて発生した。20年間、安価
な労働力の安定供給を享受し続けてきた外資系企業にとっ
て、「民工荒」(出稼ぎ労働者の不足)は、驚きであった。問題
が多発したのは、労働集約型の企業であり、衣料品、電気機器、
電子、紡績、食品、プラスチックの8業種であった。
この10年間、給与は殆ど据え置かれたが、物価は上昇し続け、
実家への送金が苦しくなってきたことが、大きい。また、農村
地域の生活水準も向上しており、地域的格差が縮小したからであろ
う。ダムと同じで、水位差が無ければ、エネルギーも発生しない。
給与を上げざるを得ないレベルに達したのである。
中国は、西部(奥地)、中部、東部(沿海)の三地 域に分かれ、 地勢的には、高、中、低、所得では、低、中、高となる。中国語では、「水向低処流、人往 高処走」(水は低きに流れ、人は高きに登る)といわれ、沿海部大都市の外資企業へ向けて、その通りに 流れてきた。
長江上流の重慶においても、労働力不足が発生している。織布工
の月給は800元から1200元に引き上げられたが、それで
も集まらず、1500元を出す企業も現れた。内陸部におい
ても、熟練労働者のニーズは、高まるばかりである。
中国政府は、産業の高度化を目指しており、沿海地区にはハイテ
ク企業を誘致し、労働集約型外資には、遅れている中西部或いは東
北部へ誘導していくことになる。労働力ではなく、外資が移動する
情勢になってきた。これからは、企業が長江、珠江を遡航していく
ことになるのである。
7.おわりに
2008年8月8日晩8時が、北京オリンピックの開始年月日時である。日本でも、八は末広がりで縁起が良いとされている。中国語では、「発財」ファーツアイ(金儲け)の「発」の字の発音に近く、大変喜ばれる数字である。そして、2年後には、上海万博が控えている。
日本の戦後は、高度成長→貿易自由化→投資自由化→自国通貨切り上げと進み、その間、東京オリンピックと大阪万博を経験した。中国も、同じ経路を辿っている。元の切り上げも必至であり、上海万博後は、成長のピークを越え、高度成長が維持できなくなる。
江沢民前総書記は、13億の民を13年間治めるのは容易ではない、と述べた。人口は食事をする人々であり、人手が働く人々である。人口が分母となり、人手が分子となる。長期的には、中国も、少子高齢化となる。分子を大きくしなければ、国家財政はもたない。
現在、中国の最大の課題は、失業問題である。農業問題も、核心は1.5億人といわれる余剰労働力、即ち失業予備軍にある。既に都市部においても、失業者を抱えており、これ以上増やすわけにはいかない。従って、高度成長を続け、雇用を拡大し続けなければならない。
経済成長、エネルギー、環境問題のトリレンマの中において、中国の労働力は、教育水準を向上させ、職業訓練を施して、産業の高度化に対応しなければならず、合理的に各地域・各産業に分配していく必要がある。その為には、公共職業安定所のネットワークの充実と労働移動の自由化が肝要である。戸口(戸籍)制度の改革も、必須となる。更には、国外に対する労働力供給の圧力が益々強まる。日本も、その例外ではない。
中国の地域別最低賃金(元/時給)2006年11月現在
|
北京 |
7.9 |
|
|
遼寧 |
6.0 |
(大連) |
|
上海 |
6.5 |
|
|
浙江 |
6.4 |
(杭州) |
|
湖北 |
5.0 |
(武漢) |
|
重慶 |
5.5 |
|
|
貴州 |
6.3 |
(貴陽) |

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