2010年 主要な訪日研修団
1、中国国有資産監督・管理委員会訪日研修団来日
―2010年7月5日~7月25日―
中国国有資産監督・管理委員会は、2003年の国務院機構改革で設立されたものである。中央レベルだけでなく、各省にも対応する委員会がある。 憲法改正によって、中国の国営企業は国有企業に改編され、その国有企業の監督・管理機能は、行政部門から国有資産監督・管理委員会に移された。その任務は、主として資産価値の保全と増大にあり、企業経営には直接タッチしないことになっている。今回の訪日研修団は、国務院国有資産監督・管理委員会の高級監事である何徳良氏を団長とする一行25名の大型代表団だ。訪日目的は、国有企業の技術レベル向上にはどのような政策をとるべきか、日本の経験に学ぼうということである。
中国政府は近年、政策として自主技術の開発及び、中国ブランドの創出などを掲げており、その一環としての日本の経験を学び、国有企業の技術レベルアップを図りたいという。具体的政策もさることながら、経済的社会的環境づくりも大変重要だと思われるので、社団としても全力を挙げて、関係者の協力の下、実りある訪日成果が得られるよう努力した。
光触媒の世界的な権威 藤嶋昭先生の講演
一行は、7月5日(月)成田空港に到着。翌日の6日10時、社団を訪問。
社団で研修日程を説明した後、前理事長である韓慶愈より、社団法人日中科学技術文化センターの歴史及び、韓慶愈自身が自ら担った日本と中国との交流史を説明、社団への認識を深めてもらった。また韓は、日本と違って中国は土地が国有であるため、鉄道や道路などのインフラ整備の点ではとても有利に運んでいる状況を十分に認識すべきであると語った。
午後は、文部科学省科学技術学術政策部を訪問した。
渡辺格・科学技術・学術政策局次長/原子力安全監から、日本の科学技術・学術行政の推進体制、とりわけ科学技術政策の企画及び立案並びに総合調整を担う総合科学技術会議について説明があった。渡辺氏はまた、主要国等の科学技術関係予算の推移を述べ、主要国に比べ、我が国の科学技術関係予算の伸びが低調であり、極めて憂慮すべき状況であることを率直に明らかにした。
主要国等の論文数シェアと被引用数シェアの推移(5年累積)では、中国が躍進しており、08年には論文数シェアで日本を上回り、被引用数シェアでも日本との差が小さくなってきていること、アメリカにおける科学技術分野の博士号取得者の国籍では、2002年以降、アメリカにおける中国国籍者、インド国籍者の博士号取得者の国籍が急増。日本国籍者は横ばいであり、その結果、日本人の占める割合は減少しつつある現況を明らかにされた。
7月7日(水)は、午後から社団会議室で東京理科大学学長の藤嶋秋昭先生より講義をしていただいた。藤嶋先生は神奈川科学技術アカデミーの前理事長であり、いわゆる光触媒技術の開発者であり、その名声は世界的である。この4月から理工系の総合大学である東京理科大学の学長に就任されて大変お忙しい身であるが、時間を作っていただいた。
100回近い訪中を重ね、中国の各大学から名誉教授の称号を付与され、中国と深い関係をもつ藤嶋先生は、2006年8月、社団法人日中科学技術文化センターと中国室内環境監測工作委員会との共同主催で、「光触媒講演会」を開催、香港からも含めて100名ほどの参加者があり、大変好評だったことがある。
今回も、光触媒の歴史と現状を明らかにされ、光触媒技術の効果が得られた契機などを説明しつつ、様々な効用をもたらす光触媒の技術を明らかにされた。光触媒とは、約40年ほど前に、藤嶋先生が、酸化チタンという物質に光が当たると水を分解する働きがあることを発見した。自分自身は変わらずに、他の物質を変える働きのあるものを「触媒」というが、光が当たった時だけこうした働きをすることから「光」触媒といわれる。
酸化チタン光触媒は、空気清浄機や外壁材など様々な分野で広く使われており、日本発祥のオリジナル技術である。
藤嶋先生は、現在、名古屋の中部国際空港などの外壁やガラス面が光触媒でコーティングされ、汚れなくなっている実例をパワーポイントを使って説明され、現在の日本ではすでに1万棟以上のビルが光触媒を応用して建設されている現状を明らかにされた。
講演後、中国研修団からの質問も多く出たが、この日以後、団員仲間では光触媒を他のどんな分野で活用できるだろうかと絶えず議論が沸き起こったという。
浜松ホトニクスの技術開発精神
翌7月8日(木)は、静岡県にある浜松ホトニクス株式会社より、取締役・中央研究所長代理の工学博士である原勉氏に、社団会議室で講演をいただいた。通訳は同社の国際部アジア地区グループのグループ長である鶴見哲久氏が行った。
原氏は、浜松ホトニクス㈱の「未知未踏領域の追及と産業化」という同社の開発精神や、創業者の「真の価値は<金>ではない。新しい知識だ」「人類には知らないこと、分からないことが無限にある」という言葉を紹介しつつ、同社の積極的な技術開発に対する情熱ある企業姿勢を語った。また同社は常にトップダウン方式をとり、経営トップは10年~20年先の哲学を語るという極めて先進的な企業理念を持っていることも述べた。「技術を高めよ、そうすれば金は後からついてくる」また「マインドブレインサイエンスによる世界を目指す」という企業姿勢は、「浜松の遠州地区(同社がある地)からガンで亡くなる人、痴呆で苦しみ人をなくす」という地元の地域にも貢献する企業であることを語り、研修団の人々に感銘を与えた。
また、1979年~83年にかけて、通産省から研究開発費を受けて委任研究をしたり、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助金を受けて浜松ホトニクスにおける光触媒処理デバイス研究に取り組んだ実績を明らかにした。その中で原氏は、会社の金で研究する場合は“縛り”があるが、政府の補助金だと自由に研究できるメリットなどを挙げた。
中国からは、補助金を受けたが失敗した、という場合は、お金を返還するのかという質問が出た。原氏は、委託研究は全部もらえるが、中間評価があり、その時点で見込みがない場合は打ち切られるが、補助金は返さなくともいいとの返事をされた。
「研究成果を事業化し、光産業創成を目指す」という浜松ホトニクスは、「富士山の頂上を目指す」が途中で挫折しても、「天女に会えたらいいではないか」という羽衣伝説を引いて研究開発の重要性を説いた創業者のエピソードを語った時には、研修団からの笑いが起こった。
翌7月9日(金)は、日本商工会議所を訪問。地域経済社会の代弁者として意見を述べ、民間の力を結集した政策提言や要望活動を行っている商工会議所の活動を紹介された。
10日、11日は、休日のため、日光や秋葉原などの都内遊覧を楽しんだ。
7月12日(月)は、当社団理事長で福井県立大学名誉教授の凌星光が講演を行った。凌は、「政府主導型市場経済の下での公的部門の在り方――日本の経験を踏まえて」というテーマで話し、また凌の論文「新東アジアモデルの構築とエイシアン・スタンダード」を中心に、政府の役割と市場原理の結合の重要さを説き、新自由主義への批判を行った。それを踏まえて、中国の国有企業の在り方と政府部門の一環である国有資産管理委員会の存在価値を論じ、大変好評を得た。
7月13日(火)は、当社団会長である野沢太三(工学博士、元法務大臣)が、「日本鉄道技術の発展と政府による育成策」という題で講演。国有鉄道が民営化され、JRに変更されたプロセスの指導的地位にあった野沢は、日本の鉄道の歴史、国鉄改革の必要性、国鉄改革の基本的な考え方、分割・民営化の成果、また新幹線技術の発展のプロセス、進化する東京駅について話し、研修団の関心を呼び覚ました。その後、実際に東京駅を訪問し、先進的なシステムで動いている現状をじっくりと視察した。
7月14日(水)は、経済産業省を訪問。石川正樹・産業技術政策課長、永澤剛・産業技術政策課政策委員、高木重孝・通商政策局北東アジア課課長補佐、向井智志・通商政策局北東アジア課中国担当、同じく宗像哲也・中国担当から、日本の産業育成策と産業構造の高度化について話を聞いた。戦後日本の産業育成策と産業構造の高度化を実現したプロセス、また今世紀に入ってからの産業政策を重点に話していただいた。
その日の午後からは、日本コンピューターダイナミック株式会社会長の下條武男氏から、「ベンチャー企業の発展における政府の役割」というテーマでお話をいただいた。下條氏は、日本ではじめてソフト会社をつくったベンチャー企業家である。最近の著作『楽しく、ダイナミックに』を踏まえて、ベンチャー精神を貫く環境づくりには何が必要かを話していただき、中国側から大きな反応があった。とりわけ経済産業省のベンチャー企業育成策には大変な興味を示した。
7月15日(木)は、午後から財団法人神奈川科学技術アカデミー(KAST)を訪問した。理事長の馬来義弘氏から財団の歴史と現状を詳しく説明をいただいた。KASTは、先端技術の研究と産業の振興を通じて、神奈川の発展とくらしの向上に取り組む産学公の連携機関である。具体的な事業としては、先端的な科学技術分野・中小企業のための工業技術分野における研究の推進、研究成果の育成・技術移転、人材の育成、学術文化の振興、試験分析などに取り組んでいる。
馬来理事長の講演のあとは1階にある光触媒ミュージアムの見学をした。村上武利ミュージアム館長から、光触媒の原理を実験用の機械を使って分かりやすく説明をしていただいた。ここには、光触媒の原料から応用製品まで展示してある。酸化チタンをコーティングしてあるガラス面と、そうでないガラス面に水をかけると、明らかに光触媒を利用したガラス面は水をかけると綺麗になるが、そうでないガラス面は外が見えなくなってしまう。現在、このミュージアムには企業関係者だけでなく、小中学生や一般の人々の来館も多いという。
凌星光
「日本の経験と教訓から見た日中経済協力の在り方」
戦後の日本経済の目覚しい発展と、ここ20年間の経済停滞の原因を究明し、中国経済の抱える現在の諸問題についてコメントする。その上で、21世紀前半における、日中経済協力の在り方を検討する。これを以って総括的講義とする。
②大連中級人民法院研修団来日
大連中級人民法院

2010年の10月29日から11月29日にかけて日本の司法と法整備の状況を学ぶために大連中級人民法院の研修団24名が来日した。折しも尖閣諸島の問題で日中関係が悪化している時期であったため、公務・講義手配は困難が予想されたが、関係者の助力もあり充実した日程を組むことができた。研修団は大連中級人民法院でも高い地位の人で構成されているため、海外の司法制度に対する向学心が強く、日本の保護観察制度や2009年から施行されている裁判員制度に大きな関心を持っていた。この研修団に対して全国保護司連盟の理事であり裁判員制度の成立に尽力した野沢太三会長から講義を受けられたことは幸いであった。また、中国でも関心が高まっている知的財産権の法整備の現状と実例の講義を協和特許法律事務所の黒瀬雅志副所長が特別に行ってくれたことも今回の研修の質的向上に一翼を担うことになった。
法務省を訪問し、日本の司法制度の現状について話を聞くということはこの団体の強い希望だったが、尖閣諸島侵略問題の前線に立っている法務省ということで受入は難しいと思われていたが、受入を快諾してくれたうえ、この時期に日本の省庁を訪問することによって研修団が母国でなんらかの処罰を受けることになりはしないかという所まで心配していただいた。訪問の際は、裁判員制度をはじめとした日本の法制度改革のあらましについて丁寧な講義をしていただき、映像資料として裁判員に関するDVDまでいただいた。
続いて訪問した最高裁判所では最高裁が手がける審議案とそれに伴う裁判官の人数など、地方裁判所、高等裁判所との違いを交えて説明を受け、研修団も厳粛な雰囲気に感じ入ることひとしおであった。
未成年者の犯罪再発の防止は中国でも大きな課題となっているため、日本の保護観察制度とそれを担う保護司について知ってもらうために、全国保護司連盟を訪問し講義を行っていただいた。全国の保護司を統括する本部とはいえ、常勤職員は少なく、多忙の中をおしての講義だったが、西仲間貢事務局長自ら非常に充実した講義を行っていただき、日本における未成年の再犯率も含め、保護観察制度の有効性と仕組みを理解してもらうことができた。
21日間に及ぶ研修は無事終了し、研修団が日本で得た知識は必ずや中国の今後になんらかの影響を与えると確信できる。
3、福建省地方税務局研修団来日
福建省地方税務局

12月11日から12月31日にかけては、日本の地方税の現状を学ぶために福建省地方税務局の研修団20名が来日した。年の瀬という慌しい時期の来日であったが、関係各所の尽力により非常に充実した研修を行うことができた。日中双方の税金システムには大きな差異があるため、専門家で構成されている研修団も当初はその違いに戸惑っていたが、最終的には日本の地方税制についてかなりの理解をいただいた。
足立区や東京都、川崎市などの自治体は議会開催中で多忙にも関わらず特別区における地方税の概要と運用についての講義を行っていただいた。
地方税全般の知識を深めるという研修団の目的に沿い、自治体以外に総務省からも講義を頂戴することができた。税制改革の作業で手一杯の中であったが、研修団の目的と日中交流の重要性を理解してくれたことは感謝の念に絶えない。豊富な資料を基にした講義はわかりやすく、日本の地方税に関してバランスの良い研修を手配することができた。また、今回は静岡県の全面的なバックアップを受けることができ、研修だけではなく、日本の自然や文化に触れ親しむ機会を作ることができた。
研修団は12月31日に全ての研修を終えて帰国した。限られた時間ではあったが、彼らにとって非常に有意義な研修の機会を与えることができたと思う。尖閣問題に揺れる中、政治的主張を抜きにして日本の司法を学ぼうとした大連中級人民法院研修団とそれに応えてくれた日本の方々、またお忙しい師走の時期に快く協力してくれた関係各位に改めて感謝を申し上げたい。








